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条件反射制御法
(Conditioned Reflex Control Technique)
(2016年2月1日更新)
【はじめに】
条件反射制御法は、薬物乱用者の治療のために平井愼二氏(下総精神医療センター・精神科医)によって、2006年にまとめられたパッケージ療法です。パブロフ学説を忠実に踏襲した解説は、現代学習心理学しか知らない世代には言葉遣いが難解に聞こえ、しばしば翻訳を必要とします。そこで下記は私なりに解釈した条件反射制御法の解説です。この方法の独創性と有用性が表現のせいで埋没しないよう、普及に向け大事に育てていきたいと思っています。
私がパッケージ療法であると考えたのは、本法が4つのステージから成り立っており、それぞれが独立した機能がありながら、非常に丁寧に薬物乱用者への介入プログラムとして仕組まれている点からです。ここでそれぞれのステージの解説を試みてみます。また、新たに条件反射制御法に関するヘルプページとして臨床応用しての感想や失敗、下記の解説を読んで不明な点に関する問い合わせ等に対応するために掲示板を用意しました。メールにて送られてきたものにお答えしていきますのでご利用ください。
【第1ステージ:キーワードとアクションの設定】
まず、「俺は今、シャブやれない」(例)という文言と簡単なジェスチャーを決めます。このキーワードとアクション(KWA)を繰り返すのが第1ステージです。これは、「負の弁別刺激」と呼ばれるもの(おまじない)を作っていく過程です。これはKWAが目的(条件性制止子)の機能を獲得するまで、およそ400回から1000回の練習を必要とします。練習は20分以上の間隔をあけて、一日20回以上を目指して行います。その際、さまざまな五感の刺激とともにこの条件づけを設定していきます。たとえば、自宅で一人の時にやってしまうような行為を止めたい人は外で誰かといるときに、携帯や時計を見ながらとか、おいしそうなドーナツの香りをかぎながらとか、自宅に持ち込めるものとの条件づけも作っておくとよりうまくいきます。あくまで目覚まし時計のアラームのようなものを設定しているので、感情や意思をこめずに淡々と行うことが強力な回路を作るようです。ふと何かを思い出すときに私たちは思い出そうとすると思い出せないという経験がありますよね。断酒や禁煙には強い意思がなければできないと思われがちですが、実際はこの意思が、やめるという単純な行為を邪魔します。
美味しい好きな食べ物を我慢して食べないようにして、それを続けているところを想像してみてください。その食べ物のことを考えないようにしよう、気にしないようにしようと思えば思うほど、我慢した分だけ手に入れ難い最高の食べ物になっていきます。我慢する前よりも数段、上級の食べ物のように思えてしまいます。我慢し続けた上に、ふと気を抜いたその時に目の前にその食べ物が現れたら、衝動性が高まっていますので一気に口にしそうです。食べてしまって一気に自分に失望してしまいます。我慢が禁物というのはそんな理由があります。条件反射制御法では、特に感情や意思をこめないことを重要視しており、これが第2信号系を介さず、第1信号系条件反射に組み込んでいくためのコツです。詳しく知りたい方はこちらのページをお読みください。
【第2ステージ以降】
さて、KWAがまるでストッパーのように条件性制止子の機能を担った頃に擬似と呼ばれる第2ステージに入ります。ここで特に薬物依存においては、二プロ(株)と平井氏が共同開発した擬似注射筒を使ったり、できるだけ患者が依存していた物質に似せた物を用いながら、擬似動作や擬似摂取をさせてビジュアル的に現実エクスポージャーを行います。またそれとともに、KWAによって摂取行動への衝動が制御できていることを患者に体験させ、KWAの威力を知ってもらいます。擬似的に注射を打っても体内には薬理反応が生じないため、擬似注射を打つ動作を行ったり見たりしても体が記憶する(条件づけられていた)レスポンデント反応は消去されていきます。これを一日20回繰り返すことで報酬のないオペラント行動自体の消去も徐々に起こっていきます。第2ステージも擬似が200回を超えた頃に、第3ステージに入っていきます。ここでは、依存物質を手に入れ摂取するまでの詳細を事前に書いた「ある一日のストーリー」をありありと想像しながら読ませていきます。ストーリーを事前に書いておく時期は第1ステージの頃がいいといわれていますが、思い出は風化するからです。患者はすでに克服したと思われた注射筒と身体感覚との条件づけ以外にも、風景や人の表情や思い出のモノや時刻やちょっとした思考や感情が物質依存との条件づけを維持していた行動のチェーンに第3ステージで気づくことになります。そして、それらと条件づけられた身体反応をKWAで衝動制御できていくことを第3ステージでも体験していきます。このようにして獲得した新たな条件づけを維持していくために第4ステージでは、KWAを数回程度は続けていきます。4つのステージで行われている技術や目的の違いがお分かりいただけたでしょうか。
【補足】
追記しておきたい余談があります。第1ステージにおけるKWA設定段階というのは、後続のステージのための準備段階であるとともに、衝動行為や違法行為など自己コントロール感のない生活を送ってきた患者に、それ以外の簡単な行動を増やしていく他行動分化強化を行っている段階ともいえます。そして患者がコツコツとまじめに取り組んだ第1ステージの結果が第2ステージで魔法の杖を手に入れたかのように使えるとしたら、これほど単純かつ非侵襲的に自己効力感を得られるツールはないと思えます。しかし、エクスポージャー概念というものは、残念ながら世の中に市民権を十分には得ていません。ストレスは排除しよう、断酒こそが正しい治療法であると言われるように、さらす/さらされることを徹底的に回避する介入が主流の現場において、治療者や対人援助職にとっては非常に勇気のいる介入ともいえます。一旦、エクスポージャー介入効果を知るとこれ以外には有効な治療がないことがよくわかります。強度や頻度をあの手この手と変えながらさらし続けるモチベーションを維持していくことこそが、行動変容を支える真髄だと私は考えています。
追記しておきたい大事なことを思い出しました。擬似ステージの考え方はビジュアル的に脳をだましながら快感や刺激という身体反応(報酬)を与えないものです。抗不安薬などの処方薬依存の治療は専用に作られたプラセボを使うことで条件反射制御法の詳しい解説を知らなくとも利用できます。(株)メトグリーンが販売する「サティスフェイク」がそれを可能にします。形状だけ睡眠薬や抗不安薬に似せたものが5種類作られていますので、依存する処方薬に近いものを選んで置き換えていきます。その際、大切なことはプラセボであることを伝えて渡すことです。体に悪くないのでどうしても眠れなかったら「もう一錠飲んでも大丈夫」。一旦はバーストしても、徐々に減らしていくことができます。
私がこの方法を用いて治療に使った例は,強迫性障害がもっとも多いのですが,それ以外にも薬物依存,盗癖,盗撮,喫煙,過食,考え込みなどを止めたことがあります。しかし,これは私が止めたというよりも患者さんたちがコツコツまじめに取り組んでいただいたことが成功した理由です。
創始者の平井愼二先生に会えます。ここでは事前研修を受けた方に限り、5日間の実地研修を受けることができます。なんとお得な11,000円。じっくりとこの技法を患者さんの様子とともに研修することができます。行動療法というのは実地研修は欠かせないアイテムですが、26年度は7回も受け入れたそうです。定員は各2名、お早めにご応募ください。
中元総一郎先生を中心に、スタッフの院内研修会を行うなどして、本法の普及に取り組んでいる病院です。第三回研究大会(2014年7月大阪)では体験者の方のご発表がありました。とても重症だったであろうアルコール依存の方や本法に懐疑的だった薬物依存の方が、中元先生のご指導のもと、見事に依存症から抜け出したという話をなさっていました。依存症治療の関西の拠点となっていきそうな勢いです。
札幌市にあるこの研究会の事務局も兼ねたクリニックです。院長の長谷川直実先生は外来でさまざまな症例に対して本法を使った治療を行っています。この方法を手に入れてから触法患者の受け入れが苦ではなくなったし、以前よりも重症な方でも治療見込みがでてきたとのこと。塀の中の人とも本法を使った取組みをなさるなど、静かだけど積極的挑戦的な先生です。
この治療が受けられる
施設の情報
※学会発表などをもとにしました。掲載をご希望の方はご連絡ください。
○紘仁病院(名古屋市守山区四軒屋1-710)
精神科 元 武俊先生
○アクシスリマインド(札幌市中央区大通西5丁目昭和ビル4F)
カウンセラー 富田敏也先生
○関西医科大学附属滝井病院(守口市文園町10-15)
精神科 許 全利先生
○千葉ダルク(千葉市中央区白旗3-16-7) 白川雄一郎代表
○新潟刑務所(新潟市江南区山二ツ381-4)
教育専門官 田村勝弘先生
研究会では、全国各地での研修会と年次学術大会を開催しています。また、新たな事業として「社会復帰施設への条件反射制御法普及事業」を行っています。これは、条件反射制御法の第4ステージ・維持作業を行う事業所を増やすものです。研修を受けていただき、さまざまな依存症からの回復途上にある方々を受け入れていただく場作りをお願いするものです。